【連載】今日もサメ日和◎沼口麻子——第2回/病床で考えた自分が大好きなもの

第2回 病床で考えた自分が大好きなもの

「世界で唯一のシャークジャーナリストなんですね、どんなお仕事なのですか?」 
 必ず聞かれる質問である。今日の打ち合わせでも開口一番にやっぱり聞かれた。 

 シャークジャーナリストは私が作った肩書。Googleで検索してもヒットしなかったので、きっと世界で私だけ。仕事内容は至ってシンプル。サメの魅力を多くの人に伝えること。その目的を果たすためなら何でもやる。 

 世界三大危険ザメとされるイタチザメの水中レポートもするし、生態が解明されていないサメが水揚げされたと聞けば、すぐに漁港に駆けつけて取材をする。サメの解剖や標本作りの指導、サメ好きのオンラインコミュニティの運営やサメイベントの主催もする。 

 大変なお仕事ですね、と言われることもある。スコットランド沖でウバザメを撮影中に凍死寸前になったり、サメを探しに訪れたドバイの魚市場では殺されそうになったりしたことも確かにあった。取材中に死を感じた経験は幾度となくあるが、サメに会えるのであればなんて事はない。 

 サメ三昧の人生を送る! 

 そう思って始めた仕事。しかしながら、すぐにシャークジャーナリストとして独立できたわけではなかった。新卒で入社したのは渋谷にあるIT企業。勿論、サメとは縁もゆかりもない会社である。 

 そもそもサメに関わる仕事は世の中にどのくらいあるのだろうか。サメを飼育している水族館や研究機関、フカヒレ業者(フカヒレとはサメのヒレのことである)といったところだろう。私は水族館への就職に興味があったが、内定が出たのはドルフィントレーナーという職種だった。サメ好きとしてイルカに寝返ることはできないと、その内定を蹴ってなぜかシステムエンジニアになった。 

 その会社に入社した日、私はサメと訣別した。サメに未練があったら社会人として仕事に集中できなくなる気がしたからだ。持っていたサメグッズや書籍、文献など全てを処分した(今思えばもったいないことをした)。しかしながら、そんな意気込みも虚しく、頑張っても頑張っても結果が出ない日が続いた。知らず知らずに積み重なるストレス。 

 ある日、突然思い立ち、バイクの中型免許を取った。未明の首都高をバイクで無目的に走ることが日課となった。その後、小型船舶2級を取った。週末になるたびに、八景島から羽田空港沖に向かって船を走らせた。勿論、目的などはない。ただただひとりで走り続ける。危険極まりない。当時の私は、少しおかしくなっていたのだと思う。 

 そんな生活を送っていたら体調不良になって、私のサラリーマン生活は8年であえなく終止符を打った。ある日を境に、布団から起き上がれなくなったのだ。原因は不明。回復見込みが立たず、退職を余儀なくされた。天井を見上げながら自問自答する。このまま一生寝たきりになったとしたら、私は成仏できるのだろうか。いや、できない。 

 サラリーマン時代にある営業セミナーに参加したことがある。「営業の仕事において大切なこと、それは多くの人がまだ気づいていない困りごとを認識し、いち早く解決することです。自分ごとに落とし込んで考えてみてください」。寝込んでしまった布団の中で、ふとそのエピソードが頭に浮かんだ。多くの人が気づいていない困りごとって何だろう? 私の悩みって何だろう? 
 ―――私、サメが大好きだから、サメの話をたくさんできる友達が欲しいなぁ。 

シャーキビリティの向上を推進する  

 今年、私がもっとも力を入れているイベントは、2025年11月2日に静岡県で開催されるシンポジウム「サメサメ会議2025~サメの未来をみんなで考えよう~」である。100名ほどのサメ好きが全国から集まり、学んだり、発表したり、展示したり、販売したり。年齢問わずのサメ好きの大交流会だ。東海大学名誉教授の田中彰博士をゲストに招く。 

「サメ好きな人はサメ好きな人を求めている。だけど、出会えるチャンスがほとんどない」。この困りごとの解決策として「サメ好きが一堂に会する場づくり」を行ってみたところ、私が主催するサメイベントの年間のべ参加者は500名を超えた。実際の参加者からは「サメの話ができるから、5秒で友達を作ることができました」との声も。サメトークをしたくてうずうずしている人たちが世の中にこんなにたくさんいたとは!  

 もう少しだけ、私が主催している「サメサメ会議2025」について話したい。会場は私の母校でもある東海大学海洋学部のある三保半島(静岡県静岡市清水区)にある「Beach hotel gosea’s」。イベント内容詳細はフライヤーをみてもらうとして、私がイチオシの魅力を5つ紹介する。 

1)サメを肥料とした畑づくり 
 漁師さんの網に誤って入って死んでしまったサメを譲ってもらい、そのサンプルを使って自由研究を行っている。解剖が終わったサメは廃棄するのではなく、畑の肥料にしてサツマイモを作り、参加者に配る。サメを肥料としたサツマイモを通称「サメ芋」と呼んでいる。 

2)子ども、研究者、漁師など「多属性のある交流」 
 サメ愛好家、サメ研究者に憧れる子どもや学生、アカデミックな研究者、サメを獲る漁師、YouTuber、新聞記者など。立場によって同じものでも見え方が違う。複数の属性を持つサメ好きと交流できる場を提供する。

3)早朝の海岸プラごみ調査 
 会場の目の前は浜辺が広がる。駿河湾はサメの種類が豊富な海としても知られる。大好きなサメたちが誤飲しないように、みんなでプラごみを拾って、ディスカッションを行う。 

4)子どもたちの安全を守る会場選び 
 ホテル一棟を貸し切りにしている。部外者が入ることができないので子どもたちも安心して参加できる。1階がイベント会場で、2階より上が客室。前泊、後泊が可能で、イベントに疲れたら自分の部屋に戻って休むこともできる。 

5)災害対策 
 この会場を選んだ最大の理由は津波避難場所でもあること。会場であるホテル屋上が避難場所になっているので、参加者全員を短時間で誘導することが可能。 

 そして、私のイベントでは、各々が好きなことをして良いというルールにしている。大海原を遊弋[ゆうよく]するサメの如く、元気に走りまわっても良し。お菓子を食べても良し、寝ても良し。自分が心地よい状態でサメを学ぶことがいちばん良い。サメの魅力的な生態を知れば知るほど、サメのことを好きになる。関心を持つ人が多くなったら、数を減らしているサメの現状もより多くの人の耳に入るかもしれない。 

「シャーキビリティ」という言葉は、サメに対する知識や熱い情熱という意味で、私が作った造語である。多くの人の「シャーキビリティ」が向上したら、サメとヒトとはもう少しうまい付き合い方ができるはずだと願って止まない。 

 最後に、昨年のサメサメ会議に参加してくれた小学生からの感想を記したい。 

「早くサメサメ会議に帰りたい」 

 今日も今日とてサメ日和。よろシャーク。 

イベント情報

「サメサメ会議2025」の詳細と参加申し込みはこちら
https://www.symphonie.online/samesame2025/

沼口麻子

ぬまぐち・あさこ 1980年生まれ。東海大学海洋学部を卒業後、同大学院海洋学研究科水産学専攻修士課程修了。在学中は小笠原諸島周辺海域におけるサメ相調査とその寄生虫(Cestoda条虫綱)の出現調査を行う。現在は、世界で唯一の「シャークジャーナリスト」として、世界中のサメを取材し、その魅力をメディアなどで発信している。著書に『ほぼ命がけサメ図鑑』(講談社)、『ホホジロザメ』(福音館の科学シリーズ)。

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